最高裁判所第三小法廷 昭和45年(オ)740号 判決 1971年3月09日
上告人
松倉留八
代理人
樋渡道一
被上告人
太田三郎
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人樋渡道一の上告理由および上告理由第一、二点について。
本件土地はもともと函館市上野町一番の二畑二町四反六畝一五歩に含まれていたもので、訴外太田浜之助が自作農創設特別措置法によつて国から右一番の二の土地の売渡を受けて所有権を取得し、同訴外人の死亡により被上告人が相続してその所有権を取得したものであり、上告人所有の同町一番の一の土地には本件土地は含まれていないものである旨の認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できないものではなく、右認定の過程に採証法則違背も認められない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
同第三点について。
「相続人が、登記簿に基づいて実地に調査すれば、相続により取得した土地の範囲が甲地を含まないことを容易に知ることができたにもかかわらず、この調査をしなかつたために、甲地が相続した土地に含まれ、自己の所有に属すると信じて占有をはじめたときは、特段の事情のないかぎり、相続人は右占有のはじめにおいて無過失ではないと解するのが相当である。」ということは、当裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和四二年(オ)第五九七号、同四三年三月一日第二小法廷判決、民集二二巻三号四九一頁)。ところで、農業委員会作成の図面または法務局備付の図面を閲覧し、それらに基づいて実地に調査をすれば、前記一番の一と一番の二との境界を比較的容易に了知し得たものであるのに、上告人は右図面等を閲覧したこともなく、また、自己の買い受けた一番の一の土地を実測したこともないのであるから、上告人が本件土地を占有するにあたつて自己の所有と信じたことには過失がなかつたとはいえない旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。所論引用の判例は、右に説示したところと牴触するものではない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美 関根小郷)